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「いた……」
狭い路地を右折すると、飛翔くんの車が飛び込んでくる。
あたしは、飛翔くんの前に車を停めようとすると、バックミラーに飛翔くんが車から降りてくる姿が映り、バックに集中できない。
「流奈ぁ~、お前へたくそだな~」
窓からそんな言葉が入ってくる
“飛翔くんがそこに立っているからだよ”
そう心の中で呟きながらも、あたしの顔は赤色に染められていく……
「オッケ~!!」
その言葉に、あたしはパーキングにギアを入れ、携帯とタバコを片手に車を降り、飛翔くんの車に乗り込もうとしながらも周りを少しだけ気にした。
飛翔くんの車に乗っても、なぜだかキョロキョロしてしまう。
視線を感じ飛翔くんの方を見ると、そこにはあの時と同じような笑顔があった。
「あれ??なんか、車寒くないよ?」
暑がりな飛翔くんの車の中は冷んやりとするイメージがあるのに、今日はあまりにも外が暑かったせいか感じない。
「まぁな♪冷夏仕様にクーラーの設定は24度にしたんだよ♪」
「えーっ!!本当?飛翔くん暑いよね?」
「あちーなぁ、俺、異常な暑がりだから」
「ごめんね、いいよ!!冷夏大丈夫だから♪」
「いいの、いいの!!冷夏の特等席だから♪」
“特等席”
その言葉になんだか“特別”そう言われた気がして、それだけで嬉しくてあたしは自分がはにかんでいくのが分かった。
懐かしいこの気持ち
暫く、封印し続けてたこの感情
それはきっと、もう止まらない……
「でも、暑かったらいいからね♪」
「おう!!分かったよ!!溶けそうだったら言うわ!でも、ほんの少しの時間だけだから大丈夫だよ」
「えっ……そ、そうだね」
ほんの少し……
そう、あたし達が逢える時間は限られている
あたしが結婚していなかったら
飛翔くんが普通の女の子と普通の恋愛をしていたなら
何気ない飛翔くんの言葉に心が痛くて、さっきまでの喜びが、悲しみに押しつぶされていく。