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「伊織~」
「うわっ!!びっくりしたぁ~!!」
いつも同様、店の近くの駐車場に車を停めて降りると背後から聞こえた声にあたしの体はビクンと反応した。
「そんなに驚かないでよぉ~」
そう言いながら、笑顔であたしに近づいてくる。
この蒸し暑い季節のくせにあたしの体には鳥肌がたつ。
「びっくりするよぉ!いきなり後ろから声かけられたら」
そう一言だけ残し、あたしは足早に歩くと、待ってと言わんばかりに駆けよってくる。
大貫さん
最近は、あたしの出勤に毎回、店に足を運んでくる。
大きなお金もおとしていく
売り上げに繋がるから、引っ張り続けたい太客。
だけど、あたしは感じてしまっていた。
だんだん、この人の気持ちが形を変えて来ていることに、
そして、それに脅えていた。
「待っていたんだよ!やっぱりこの駐車場だったんだね」
笑顔のくせに、目だけが据わっているように感じる。
あたしの中を覗きこもうをするようなそんな目……
「大貫さんも、この駐車場だったの?」
「違うよぉ!伊織どの駐車場なのか、早めに来ては探してたの」
「えっ?」
「車は前に帰りすれ違ったから、覚えたんだけど」
「あ、そう……」
近いはずの店が、今日はなんだかとてつもなく遠く感じる。
「絶対に同伴してくれないから、こうでもしないと店以外で話せないから」
その言葉に、チラッと大貫さんを見ると、真っすぐ前だけを見つめて笑顔すら見えなかった。
「だから今日は、幸せな日だからラストまでいちゃおうかな」
笑顔でそうあたしの顔を見たが、あたしは全然笑えなかった。
むしろ、笑おうともしなかった。
誰にでも、態度を変えないつもりで自分なりにやってきたはずだけど、
この人だけは、初めて話した時から身の危険を感じていたから。
あたしは店まで、足早にただただ歩き始めた。