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「はぁ……最悪、もう帰りたい」
更衣室で、そう呟くと、遅刻してきた千秋がニヤニヤしながらあたしを眺めた
「恋のせい?」
そんな風におどけて言って来た千秋に力強く「違う」と言い放った。
「大貫さんだよ」
そう呟きながら髪をセッチし直していると納得したような顔で千秋も化粧を直している。
「伊織、気をつけた方がいいよ、あの人は怖い」
それだけ言うと「先に店入るね」と駆け出して行った。
飛翔くんと逢っていた幸せな時間に浸る暇もなく、あたしは大貫さんの事で頭の中を支配される
「はぁ、嫌だ……」
鏡に映る自分に話しかけながらも「頑張れ自分!」と少しだけ気合いを入れた。
「おはようございます。」
そう待機室に入るとボーイがあたしに近寄ってくる
「慎二さんと大貫さん来てるから、先に慎二さんに着いて貰えるかな?」
そう言われコクンと頷きながら座っていた重い腰を上げボーイの後に続く…。
ほら、感じるんだ、痛く、恐ろしい視線を……
この広いフロアの中にいるのに……
「久し振り~」
この人は、店の中だけは、あたしに調子のいいことを言ってくるが、プライベートは一切突っ込んでこない。
そして、いつも指名してくれる。
もうなんだかんだ3年の付き合いの慎二さん。
「嫌味か?先週もきたぞ!!」
そう言いながら、早く酒を作れと指でグラスを叩く
「知ってるっ!!」
接客だって、本当に楽で指名されてるくせに休憩所みたいになっている。
「今日よ、仕事でトラブルかましちゃって」
少しいつもより元気がないのはそのせいか……
そんなことを思いながら「うん、うん」と話を聞いている。
慎二さんだけに集中して話を聞いているはずなのに、遠くの方で視線を感じ、視界にあの人の姿が入っている。
もしかしたら、本当にヤバイかもしれない。
そう思いながら、持っていたストールをドレスの上からかけた。