~color~


「今日は長くいるよ☆」



機嫌を取り戻したのか、やっとグラスを手にし、お酒を飲み始めると大貫サンはタバコを加えた。



こんなあたしでもさずがに、「ありがとう」なんて言えずに用意していなかったライターを探すふりをしてごまかした。



カチャッーーー


タバコに火をつけると、あたしの視線はライターへと運ばれる。


“んっ?”


それはパチ屋の名前がかかれたライター


“飛翔くんの持ってきちゃったんだ…”


ライターを強く握りしめた



“逢いたい……”



お客さんを目の前にして動き始めた感情


“飛翔くんに逢いたいよ……”



それは止まることを知らずに、自分のいる状況を忘れて全て飛翔くんへと持っていかれる。



「おいっ!!!」



その声と共に大貫さんを見ると、いつの間にか完全に酔い始めている



「ご、ごめん」



そう言うと、一瞬笑顔を作り、すぐにあたしを睨んでいるように見た。



「伊織おかしいよ。心配だなぁ…帰り着いて行こうか?」



必死に首を振った



「お話中に申し訳ありません、伊織さんお願いします」


逃げられた、この空間から……



あたしは大貫さんにグラスを重ねようとすると、それを拒否しながら「まだいいだろ?」そうボーイに反論した。


「いや、困ります」



目で合図されたあたしは、その場で小さく頭を下げ待機室へと戻った。


「あぁ~」


肩を落とすと共に、身震いをした



久々だ、あんなお客さんは……



どうやって上手くやればいいのだろう……


あたしが初めてお客さんに悩まされ恐怖さえおぼえた瞬間だった。





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