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あたしに〝つばさ”とそう名乗った男は
指名が入って席を外そうとしたあたしに連絡先を聞いてきた。
夜の世界に偏見を持ち、あたしに無愛想な姿を見せつけたのにも関わらず。
その瞬間『勝った』そう心で呟きながら、あたしは名刺にアドレスだけを付け加え書き込むと、笑顔でそれを渡した。
「どうせ、返してくれないんだろ?」
立ち上がったあたしにそう呟いたつばさを見てあたしは微笑んだ。
「電話するから絶対出てな!!」
その言葉が背後から聞こえた時
『あんたが来るようなところじゃないよ』そう思いながら、黒服の元へと戻ると、指名客の元へと急いだ。
「川澄さんお待たせっ!!」
皮肉にも次に着いた席は〝つばさ”と名乗る男の目の前の席で、冷たい視線を浴びているのがよく分かった。
「もう~伊織ちゃんに会いたかったよぉ~!!」
大人の遊びを知っている紳士的な川澄さん。
ここでの遊び方をよく分かっている。
「ありがとっ、嬉しい~!!」
「いいから早くデートしてよ」
「しょうがないなぁ~」
そんなことを言いながらも、お金で買ったあたしとの時間を冗談を言いながら満喫して、
好きなものを頼み、飲み、楽しませてくれるプライベートでは誘って来ない川澄さんは、あたしにとっては楽な大事な太客だ。
そんな川澄さんとのやり取りを、ずっと見ていた人がいるのには気づいてきたけど
あたしはそれも1つの手だった。