~color~
「終わったの?」
「え、あ、うん……」
千秋のその言葉でハッとし、自分が暫く携帯を見つめたままだったことに気づき、開いたままの携帯をパタンと閉じた。
「らしくない、今日の流奈」
「千秋こそ突いてくるね、そこ……」
ハハハッと笑いながらごまかしてみたが、千秋の視線はあたしから逸らさない。
「もう、なんかさ調子狂っただけ、色々思い出したことがあってね」
「ん……そうか、まさかあの伊織様がお客さんになんてことはあるはずないかっ!!」
「そそ、あるわけないでしょ……」
そう、ただのお客さん。
〝伊織”としてこの店に入ってからあたしはいくつもの仮面を装着している。
隣にいる千秋だってそう思っている。
だけど、あたしは……
流奈でいるときでさえ、その厳重にできた仮面を剥がすことはない。
きっと、素顔の自分なんて、何重にも固められて忘れてしまっている。
だけど、それでいい。
仮面があるからこそ、あたしは今こうして流奈でいられて生きて行けているんだ。
本当のあたしなんて誰も知らない
きっと、これからもずっと、誰にも剥がすことすらできやしない。
「着いたよ!!」
「サンキュ!!」
そそくさと車から降りると、千秋に手を振り「お疲れ」そう言って車のドアを閉めた。