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そのまま立ちつくしている飛翔くんは、未だ理解していないのか、
それともびっくりしていたのか分からないが、先に再び助手席に乗り込んだ。
窓を開けると、まだ立ちつくしている飛翔くんの姿がある。
「出発進行!!」
「店は?」
「行かない」
「はっ!?」
「出発進行だよ?」
やっぱり理解していなかったんだと思い、早くと言わんばかりに運転席を指差し窓を閉めた。
少しだけでいい……
これから先、飛翔くんとの未来があたし達に用意されてないのなら
少しだけでもこうして、傍にいて
わずかな思い出を作りたい。
離れてしまうことになったとしても、
飛翔くんの思い出の中に、今日の出来事が残って
少しでもあたしのことを思い出してくれたら……
そう思うから。
なぜだか車の中の温度が冷たく感じた。
そして、いつもはバイバイしている時間にあたしはまだ車の中にいる……。
当たり前のこと、
普通のデート
それが出来ないあたし達……
いつもは一緒にいるはずのない時間
デジタル時計の数字を見ているだけでも、なんだか幸せに思えた。