~color~
10時半で止めていたはずなのに、時間というものは残酷で、あっという間にあたし達を引き裂いた。
「今日は幸せだったな」
あたしは、もう飛翔くんの帰りの車の中にいる
全開に開けられている窓から入ってくる風が心地よくて、そんな風を浴びながら呟いた。
歩いている人もほとんどいなくて、通り過ぎる車もごくわずかな真夜中
さっきは人目を気にして車に乗っていたけど、今の時間はあたしと飛翔くんの関係も忘れさせてくれるような感覚になる。
窓が開いていたって、人の少なさから安心してしまう。
まるで何の障害のない普通の恋人同士みたいに
こんな素敵な時間を少しでも感じていたい。
目を閉じながら、おもいっきり風を感じた。
「流奈がいなくなった自分の部屋に帰る俺はもっと辛いぜ?」
その時、横から聞こえてきた不安そうな飛翔くんの声で現実に一気に戻される。
聞きたくなかった
あたしは固く目を閉じながら「気持ちぃー!!」と叫んだ。
「おい?聞いてる?」
それでも答えられなかった
今のこの時間、それを過ごしてしまったら待ち構えているのは不安や悲しみや寂しさだけ
それらに襲われるのなんて分かっていることだから
せめて今は、今だけはこうして何も考えずに隣で笑っていたい。
「聞いてねーしな」
「えっー?なんか言ったー??」
何も聞こえなかったかのように大きな声で言ってみたのは風にぶつけるかのように
そして、飛翔くんの方を向く自信もなかったから……
「本当に子供みてぇーな奴っ!!」
その優しい声を聞いて、あたしは震える唇を噛んだ。