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「伊織ちゃん?」
「伊織ちゃん大丈夫?」
ゆっくりと声をする方に顔を向けると、ボーイのと梶原さんの視線があたしの方へと向けられている。
大丈夫なんかじゃない
だけど、そんなこと言えるわけがない。
そう思いながら、今にも出てしまいそうな言葉を呑み込み「ごめんなさい」と呟いた。
視線を落とすと、ボーイの手に散りばめられたグラスの破片が見える。
ああ、あたしは片づけすらしてない。
「何かあったの?」
その言葉に顔をあげると、周りから視線を浴びていることに気づいた。
「なんでもない、本当ごめんね」
笑顔をみせながらたまっていた灰皿を交換すると「無理すんなよ」と低い声で言われ手を掴まれた。
その冷ややかなムードに、ボーイは自然と席をはなれて
周りの視線も感じられない
いつも、楽しませてくれる目の前の梶原さんが怖い顔をしている。
「無理なんか……」
「伊織ちゃんらしくないな」
あたしらしくない
あたしってなんだ?
過激に反応してしまった自分に、答えが知りたくて「あたしって何?」だなんて突っかかってしまった。
「伊織ちゃんも人間だってことだ……」
新しくなった灰皿を引き寄せると、梶原さんはタバコを取り自分で火をつけた。
あたしも人間……?
意味が分からない。
梶原さんから目をはなせずにいると、煙を吐き出しながらむせて、あたしに笑ってみせた。