~color~




「伊織ちゃん?」


「伊織ちゃん大丈夫?」



ゆっくりと声をする方に顔を向けると、ボーイのと梶原さんの視線があたしの方へと向けられている。


大丈夫なんかじゃない


だけど、そんなこと言えるわけがない。


そう思いながら、今にも出てしまいそうな言葉を呑み込み「ごめんなさい」と呟いた。



視線を落とすと、ボーイの手に散りばめられたグラスの破片が見える。


ああ、あたしは片づけすらしてない。



「何かあったの?」



その言葉に顔をあげると、周りから視線を浴びていることに気づいた。


「なんでもない、本当ごめんね」



笑顔をみせながらたまっていた灰皿を交換すると「無理すんなよ」と低い声で言われ手を掴まれた。


その冷ややかなムードに、ボーイは自然と席をはなれて


周りの視線も感じられない



いつも、楽しませてくれる目の前の梶原さんが怖い顔をしている。



「無理なんか……」


「伊織ちゃんらしくないな」



あたしらしくない



あたしってなんだ?



過激に反応してしまった自分に、答えが知りたくて「あたしって何?」だなんて突っかかってしまった。


「伊織ちゃんも人間だってことだ……」


新しくなった灰皿を引き寄せると、梶原さんはタバコを取り自分で火をつけた。



あたしも人間……?



意味が分からない。



梶原さんから目をはなせずにいると、煙を吐き出しながらむせて、あたしに笑ってみせた。



< 275 / 378 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop