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タクシーに二人で乗り込むと同時にあたし達はお互いに言葉を交わすことなんてなかった。
それが長く感じたのか短く感じたのかさえ分からないほど、
あたしの心や感情全てがどこか飛んで行ってしまったようなそんな感じがしている。
「今日は本当にありがとう」
「ううん、ちゃんと帰るんだよ?また何かあったら連絡してね」
「うん」
「じゃあね」
先に香織が下りてあたしだけが残った。
その瞬間に、ずっと我慢していたものが溢れだそうとしているのが自分でもよく分かる。
涙なんて流したくはない
あたしはそんな弱くない
かすかにふるえていた唇を噛みしめると外からこっちを見ている香織に笑ってみせ小さく手をふった。
そして、携帯を握りしめると香織とのさっき交わしたばかりの約束を破り「あのすみません、コンビニの所でいいです」そう静かに運転手さんに言った。
「この先のかな?」
「はい」
あたしには行かなきゃいけない場所がある……
そう思いながら窓の外を眺めた。
『どうしたらいいのか分かんねぇ~んだよ!!!』
過ぎ去る景色を見ているはずなのに、あたしの瞳にはきっと映ってはいないのだろう
今見たものさえ残ってはいないのだから
その代わりに恵梨に向かって言い放った翔クンの姿と声がはっきりと残っている
あたしは翔クンの苦しさも、悲しみも知らない
それはきっとこれからも分かるはずはないのだろう……