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コンビニの前でタクシーから下りると、その場で足が止まって動こうとしてくれない。
行く場所は決めていたはずなのに、そこに行くことを拒否しているようだ……
「飛翔くん………っ」
鳴らない携帯をふるえる手でただ握りしめながら、あたしはその場に立ち尽くした
「あんなの飛翔くんじゃない……」
さっきの出来事の方が夢だったんじゃないかと、今になってそう思えてくるくらい
そのくらいさっきの飛翔くんは衝撃的な言葉を放ち、それ以外のこと全てを受け付けなくなってしまうほどに支配し惑わした。
それでも「逢いたい」と素直に言えるほどあたしは素直じゃなく、そんな勇気もない
かと言って、あんな言い方をされてまでこうして涙が出ない自分にやっぱり冷めてるなとも思ってしまう。
外にこうして佇んでいると、こうも季節というものはあっけなく変わりゆくものなんだと実感させられてしまうもので
この肌寒い風を一人で感じると、もうまるで冬が訪れたかのような感覚になってしまうのは心の寒さに比例しているのであろうか
飛翔くんが残して行ってくれたぬくもりなんてものは、もうそこにはなくてこの風があたしの心をどんどんと冷たくしていく……
動き出していた
少しづつ、あの場所へと
『流奈だって待ってられるもん!!』
あの時そう言い放った自分に引き寄せられるように、少しづつ歩きだした。
もしかしたら、いるかもしれない
そう少なからず思ったのは正直な所で、いつものように車がそこにないことを確認するとあたしは涙よりも笑顔が先に出た。
もう涙なんてものは、あたしの目から湧き出る機能さえ停止しているのであろう。
時には自分の流れ続ける涙で溺れて全てを忘れてしまえたらいいのに……
なんてことも思ったが、そんなことはありえるはずがないと分かってしまった今は、泣くくらいなら笑っていたいなんておかしなことさえ考えてしまう。
どんなに涙を流したって、それは枯れることもなく浄化されるわけでもないのだから
ふと視線を下ろしたその先に、タバコの吸い殻が目に着いた。
この場所で、このタバコを捨てるのは飛翔くんだけではないのか?といるはずもない姿を探してしまう自分にも情けなくなってしまう。
「つばさくん……」
いつもあたしを迎える時に飛翔くんが座っていた場所に腰を下ろすと、その冷たい温度がアスファルトから伝わってくる。
ここが、いつもあたしを待ち続けていてくれた飛翔くんの席
そこから見る景色は幾分か、自分が見る景色とは違って見えて飛翔くんが見ていた世界が見えるような気がしていた
きっと、ここで色々な気持ちを抱えあたしをいつも待っていてくれたんだろう
一人悲しみや苦しみと闘いながら……
今度はあたしの番なのかもしれない。
そんなことを考えていても、もの凄く不安に押しつぶされそうで怖くなる
現にタバコを一本摘み出し口に加えようとする動作さえ手が震えていて上手くできないでいるのだから
それを分かっていながらも寒さのせいにすると少しだけ落着きを取りもどせた。