~color~

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「伊織~また来ちゃった!」


「へへっ、ありがとね、仕事で疲れてるのに」


「ぜんぜん、伊織ちゃんに逢えるなら疲れなんて飛んじゃうし」


そう笑うお客さんに笑顔を見せながらグラスにお酒を注いでいく。



何もなかったかのように


そう、あたしは夢を見ていたんだ



そう言い聞かせながら「いただきます」そう言うと、自分のグラスにもお酒を注いだ。



「なに、伊織ちゃん濃いめじゃん、そんなに飲んで平気なの~?」



甘い声といやらしい顔を見せたお客さんを横目で見ると

こうでもしなきゃやってらんないんだよ


そう心の中で呟き、それを水で割るとマドラーで雑にかき混ぜた。



「かんぱ~い」

「かんぱいっ」




グラスに口を付けてそれを体内に流し込めば、一瞬で体が熱くなっていく。




「それより、今日のドレスもまた可愛いね。伊織ちゃんは黒が似合う」


「そうかな?ありがと」


「黒いイメージが強いんだもん」



そんなの自分でよく分かっているよと


鼻で笑ってしまった自分がいた。






〝白好きなの?”


その瞬間、あたしの頭の中を支配するのは


やっぱり、つばさくんで……



再びグラスにお酒を注げば、それをまた体内に流し込んだ。


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