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苦しい……
苦しいよ……
トイレに入り込んだ瞬間にそのままうずくまった。
どうして?
なんでこんな気持ちに……
翼くんが最後にあたしを見た鋭い目つき
何かを失ったかのような大きなため息
それを思い出すだけでこんなに苦しい。
『誰にでも、ハートマークつけない方がいいよ!!男は勘違いするからねぇ』
その言葉があたしの頭の中を駆け巡る
支配されていく……
気が付けば、抱えているポーチを開け電源を入れセンター問い合わせをした。
その瞬間にトイレのドアをノックする音が聞こえてくる。
それに応える余裕などもうなくて、即座に受信メールのマークを押す自分。
どうかしちゃってる……そんな冷静な自分とはうらはらに、受信されたメールのマークを押す手が震えていた。
《初めはいい子だな、ってそう思っていたのに分らなくなっちゃった……》
あたしの目に飛び込んでくたメールはつばさくんからのもので、それを見るなり肩を落とす……
ゆっくりと立ち上がれば、目の前にあった鏡に自分の醜い姿が映し出されていた。
「酷い顔……」
果たしてこんな顔を今まで仕事中にしたことがあったのだろうか……
再び叩かれたトイレのドア
そのノックと同時に「伊織、大丈夫?」と黒服の声までもが聞こえてきた。
「あ、うん。ちょっと飲みすぎちゃって」
そう返しながら、メールの返信ボタンを押すと
《そうだよね、ごめんね……》
そう送ることが精いっぱいで、大きな深呼吸をするとトイレから出て席へと向かった。