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「伊織さんご指名です、行きますけど大丈夫ですか?」
「あ、うん!大丈夫だよ♪」
目の前に現れたボーイにそう言いながら後ろに着くと、不自然な笑顔をあたしに向けた。
「なによっ……」
「いやぁ~なんだか久し振りに伊織さんが戻ってきた感じがします」
「はっ?」
「なんか、違うんですよ、俺だって一応女の子のこと見てますからね~」
不意打ちをかまされたと思った……
自分では一生懸命、飛翔くんともめた夜も、離れたあの日も、平然装っていたはずなのに……
「…んなことないよ!!」
「いつもバッチリな伊織さんが崩れると誰もが分かります」
あはははっ、なんて生意気に笑いながら、フィールドを歩き始めたボーイを追いかけるようにあたしの足が自然と小走りになる
「それが、恋っすよ!!」
小さく呟きながら、指名客の前であたしをいつも通り何食わぬ顔で紹介すると「それが人間ですよ」と最後にまた一言おとし、戻って行った。
“それが人間ですよ……”
その言葉にあたしは一瞬、鼻で笑ってしまった。
そうなのかもしれない、人間の心というものが今まであたしには抜けていたのかもしれない……
そう思いながら「来てくれたんだね!!」と笑顔でお客さんの隣に腰かけたあたしは少しだけそんな自分に再び戻ってしまうのかと思うとそれに脅えた。