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涙を拭いて車の中で落ちてしまった化粧を手際よく直すとあたしは店の駐車場へと向かった
外に出ていれば、ため息と共に吐き出された白い息が今の季節を実感させられてしまう
そして、冷たい風があたしの体を冷やしていく
いつの間にこんなに寒い季節に突入していたのだろう
気がつけば、飛翔くんと出逢った季節から二つ目の季節に変わっている。
あたしは未だ、夢と現実の世界が分からぬまま…
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「伊織さんお願いします」
「は〜い」
どんなに辛く苦しい日も、あたしはここでこうして笑っていなくてはいけない。
自分さえも偽らなくてはいけない、それが大きなものなのか小さいものなのかは人それぞれなのだろうけど……。
そんなものが、本当の自分を見失い、分からなくさせてしまうのだろう。
そして、あたしは飛翔くんによって簡単に剥がされてしまった仮面をつけ、少しづつ脱がしてくれた鎧を再び一人で着るんだ。
もう二度と、着脱することもないだろう。
飛翔くん以上の人がこれから、現れる事もなければ捜す事もない
あたしはいつだって、突然消えてしまった今はもうない影を探し続けるんだ
「初めまして伊織です」
「どーも……」
ぎこちないお客さんを見ながら思い出していた
冷めた目をしてあの日あたしの目の前に現れ、突然心を奪って行った飛翔くんを……
「俺、こうゆう店初めてなんだよね」
「そうなの?」
「テレビの中で見た世界しか分からない」
まだ幼さ残るその姿にあたしは微笑む……。
ねぇ?飛翔くん………
あたしは今だにあなたのいたあの席に座る事を辛く感じてしまうの
店のドアが開く度に、あなたが覗いていた姿を思い出してしまう
でもね、偽物ばかりで固められいつの間にか本当の自分さえ分からなくなっていたあたしに
あなたは“本物”をくれたね