~color~


「つばさくんっ」


歩いている人なんて、まるで視界に入っていなかった彼は、その言葉に体をビクンとさせた。


「うわっ、マジびっくりしたんだけど、どっから来た?」



説明すると「そっか」なんて、照れくさそうにはにかみながら、タバコを地面に擦り付けて揉み消している。



「しかし、なんかちげ~なぁ…店の姿とは」



下から上までジロジロ見てくるつばさくんに、なんだか照れくさくなる自分がいる。



「そう?」


「うん、でもそっちも好きっ!!だけど、どう見ても不釣り合いだな、俺なんかじゃ」



鼻で笑ったつばさくんに、そんなことないよ!!と心の中で思っているのに、その言葉が出てこなかった自分がいる。



それほど、悲しげな、酷く寂しそうな顔をしている彼がそこにいたから。



簡単にその言葉を発することなんてできなかった。



寂しそうな表情を見せたかと思えば、すぐあたしに笑いかける。




毎日、毎日、時間の許す限りメールしているはずなのに、止まらない会話……



座り込んでいるつばさくんの横にしゃがみ、笑いながら話している二人を、通りすがる人たちが、見てくる。



咄嗟に、あたし達は周りからどんな風に見えているのだろう……




恋人同士に見えてるのかな


ただの知り合い?


友達?


そんなどうでもいいことさえ気にしている自分もいて。



「あ~、しっかし時間ってよ、うぜ~よな」



時々、時間を気にして時計を見ているあたし。


そのあたしの姿を見兼ねて、つばさくんが発狂する。



知っていたよ、あたしが時計を気にするたびに、酷く悲しい顔をしていたこと……



「本当だよね」


そう笑いながら言うことが精いっぱいで、全然平気なふりをするのがやっとで、本当はあたしだって悲しい顔をしてしまいたかった。











< 43 / 378 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop