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「なんてな、伊織ファンが待ってるし、泣いちゃうよな~」
精いっぱいの笑顔であたしを見つめながら話すつばさくんから視線を逸らした。
そんな目で見つめないで
見透かされてしまいそうだから……
「あ、うん。そろそろ行かなきゃ!!」
つばさくんを視界に入れないように立ち上がると「行くのかよ」と静かな声があたしの耳に入り込んでいた。
聞かないふりをしようかと思った。
そのままシカトしてしまおうかと思った。
だけど、あたしがつばさくんに向けた目は。しっかり捉えられている。
「うん」
たったその言葉だけが精いっぱいだったのに「行かせたくねぇよ」と、力強い言葉で返ってくる。
「つばさくん……」
「でも、行って来い!!仕事だもんな」
「うん」
それ以上、あたしはつばさくんを見ることなんてできなかった。
店の近くでたったの30分ほど話しただけの短い時間。
だけどあたしは、その時間のために沢山のリスクをしょった。
同伴を断り、店の近くで、こうして男を密会まがいみたいなことをしている。
誰かに見られたら、自分のお客さんなんかに見られたら、マイナスだ。
それでも、どこかで、遅刻してでも傍にいたいと思ってしまった自分がいた。
店を欠勤してまで一緒にいたいと思ってしまった。
「ごめんね」
「頑張ってこいよ!!」
「うん、行くね」
「おう!!」
「じゃあね」
そう言いながら、あたしは歩き始めた。
怖かった……
自分の気持ちが確信して大きくなればなるほど
あの綺麗な瞳を
純粋な心を汚してしまうんじゃないかって……
そして自分がついている嘘の大きさに
つばさくんを騙している自分に
それを知った時、つばさくんはきっと
あたしの傍から居なくなってしまうことに、ただただ脅えていて、振り返ることなんかできずに、車へと向かった。