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「はい」
「あれ?伊織ちゃん、今日出勤だよね?」
「そうです、今もう更衣室です」
「なんだ、姿見えないし、いつもこんな時間には店に入ってきてるからさ」
「あ、すみません、すぐ降ります」
「指名入ってるからよろしくね」
プープーと耳元から聞こえてくる音……
手に握られている携帯。
少し視線を横にずらせば、ロッカーの前で着替えもせずに、ただ座り込んでいるあたしが一人、はっきりと鏡に映しだされている。
この世界に入ってから、この更衣室の鏡に、今まで自分のこんな姿を映し出したことがあっただろうか……。
いつもなら完璧にメイクして綺麗に髪もセットして、装着されている仮面のあたしはいい笑顔をしているのに。
誰かを想ってしまうとこんな醜い姿になってしまうのだろうか。
よく、恋をすると女の子は綺麗になるとかいうけど、そんなのは嘘なのだろうと思わせるくらい酷く醜い。
「……サン?………サン?」
「えっ!?」
「先に店に入りますね、大丈夫ですか?何度呼んでも気づかなかったから」
「あ、ごめん。ずっといた?」
「おはようございますって言っても聞こえてない感じで座ってました、大丈夫です?」
はぁ……と深くため息を吐き出すと「大丈夫、ごめんね、ちょっと気分悪くて」
そう、返せば「あと、携帯も鳴っていましたよ!!じゃぁお先に店入ります」とそそくさに、更衣室を出て行った。
あたしは一体何をしているんだろう。
重症だ……そう思いながら、バッグに入っている携帯を取り出した。