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そのドアを開けてしまったのなら、あたしはもう仮面を装着しなくてはいけない。
私情を持ち込まない
今まで、どんなことがあろうと
辛い日も
苦しい日も
悲しい時も
嬉しい時も
あたしは店に入ったら、それを全て切り捨て自分を入れ替える。
入れ替えることができた。
いくつもの仮面があるのだから。
「おはようございます、遅れてすみません」
「おうおう、やっと登場してくれたか!今日はもう結構指名入ってるよ!よろしくね、最初はさんちゃんね」
「はぁい、頑張ってきます!!」
肩をポンと叩かれると黒服があたしをじっと見つめる
何か言いたそうな顔をして……
それを笑顔で交わすと「行こうか」と呟かれ「うん」と元気よく返事をし、黒服の後ろに着いて深く深呼吸をし自分を待つお客さんの元へと近づく。
「大変お待たせしました伊織さんです」
「やっときたか~おせ~よ、いおり~寝坊かぁ?」
「ごめんね~本当に」
そう言いながら、常連客のさんちゃんの隣に座ると「今日はなにしてたの?」の問いかけに、
一瞬、つばさくんの顏が浮かんだ。
「バイトだよ」
「そっか、じゃ、お疲れの乾杯だ」
「うん、いただきます!!」
さんちゃんのグラスと自分のグラスを重ねると、あたしは笑顔で笑った。
そう、これがあたし……
つばさくんの傍にいたあたしは、本当のあたしじゃない。
そう言い聞かせながら、その日も忙しく終わりを迎えた。