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玄関のドアを開けると同時に大きな深呼吸をした。
とてもいけないことをしている。
そんな感情を抱いているのは旦那にではなく、
いつしか飛翔くんへのほうに傾いている。
キッチンを見れば、流しに食べ終わった茶碗がたくさん置いてあって
あんなに綺麗にして仕事へ出てるというのに
キッチンも部屋も散らかりっぱなしだ。
それでも何とも思わない。
期待をしても無駄だし
腹を立ててる時間さえも無駄
求めてもしょうがない
あたしはお金のために働いている
あたしは子供たちの為だけに働いている
その為には、家事も料理も手を抜かない
“働いているからだろ”なんて言われたらそれこそ、もう限界で爆発してしまいそうだから。
カバンをソファーにおろすと、ささっと周りを片付けた。
朝ごはんを作るのに汚いキッチンは嫌だから、茶碗洗いも……
シンクに流れる水の音があたしを現実に引き戻す。
まるで、夢から覚めてしまったかのように……
『壁があるよな』
その飛翔くんの言葉が今の自分と重ね合わせる。
あたしの現実の場所。
飛翔くんがあたしに不審感をもってる大きな壁は、きっと乗り越えることができないことくらい分かってる。
ガシャンーーー!!
洗っていたコップが手から滑り落ちて、綺麗に真っ二つに割れた。
「あっ……」
その上に流しっぱなしの水があたり、水しぶきが洋服にかかっている。
壊れてしまうのなんて簡単だ……
それを重ね合わせると、涙が出てきそうになる……
唇を噛みしめて、壊れたそれを袋に入れると、シャワーを浴びにお風呂場に飛び込んだ。