~color~
どれくらいの時間、白い画面とあたしは向き合っていたのだろう。
気が付けば、外は明るくなっていて、旦那は仕事に行ったらしく姿がなかった。
あたしは見送ったのだろうか
この姿のままこうして座り込み携帯を見つめたままだったのだろうか。
それとも、きっとあたしのことだから平然装って笑顔で「行ってらっしゃい」なんて簡単に笑えていたのかもしれない。
そう、あたしはいつだってそうやって仮面をつけながら生活をしているのだから。
カーテンから差し込んでくる外の明るさに一瞬だけそんなことが頭に過ったが、もうどうでも良かった。
旦那に怪しまれようと、勘付かれていようと、もうどうでもいい。
静かな朝……
耳を澄ませてみれば、外からは騒がしいセミたちの声が聞こえてくる。
今日も始まろうとしている。
大きく息を吸い込むとずっと持ち続けていた携帯を強く握りながら1文字1文字ずつ画面に言葉を並べていく。
嫌われないようにとか、言葉を選んでいるあたしは、もうそこにはいなかった。
もう嘘をつくことなんてないのだから。
《本当にごめんなさい…飛翔くんのこと傷つけて……》
そう最後に打ち込んだとき、あたしの手は自然と止まった。
そう傷つけてしまった。
いや、あたしが飛翔くんと関わった時点でもう傷つけていたのだろう。
「飛翔くんが好きなのに……」
そう小さく呟いたあたしの口は震えが止まらなくて、そこに涙がつたってくる。
深呼吸をして送信のボタンに指を乗せると、震えているのが分かる。
このボタンで全てが終わる……
ーーー送信しましたーーー
そのボタンを押すのに迷いなんてもはやなく、あたしはそのまま携帯を置いた。