~color~



「失礼いたします。こちら伊織さんです、宜しくお願いします」


黒服が深々頭を下げる横で、あたしはただその背中を見つめた。


いつもどうしても素に戻ってしまう瞬間だ。



お金を頂いている以上、あたしは売り物。


お願いされて、席に着きお話をさせてもらう。



なんてことだよ



本当はそう言いたい想いをグッと飲み込み、黒服が頭を上げたと同時にあたしは笑顔を作った。




「失礼します」


「あ、どうも。あの気にしないで居ないと思ってくれていいから」


「えっ?」


「あ、イラッとした?相手しなくていいってこと」


「別にそんな…」


「隠しても顔に出てるよ、コイツうぜー!ってね」



目の前にあった灰皿の使い道を危うく間違えてしまうかと思った。



「そんなことないよ、マジ傷ついた」


俯きながら下を向くと、スウェット男は、あたしの顔を覗き込んだ。



上等だよ



コイツ絶対に落としてみせる。


その瞬間、あたしは心でただそう思うばかりだった。






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