僕の遊びと俺の迷惑
俺はそれを見物しつつ、残ったわずかな魔力で傷口を止血した。片足を立て、あぐらをかいて座って眺める。
球の攻撃を避けている勇者からは、珍しく余裕が無い。いくら強く身軽だと言っても所詮は人間。限界というものがある。
勇者が避け、着地した瞬間足がよろけた。
「くっ…!」
球はそれを見逃さず、それの棘によって勇者の脇腹は赤く染まった。
俺が大怪我した際にだけ使えるこの技。これを続ければ勇者から勝利を頂ける。
「…が、残念ながらタイムリミットだ。」
俺がそう言った瞬間、球は勇者から離れ、全て落下し、ただの赤い水溜りに戻る。情や情けではない。ただたんに、俺の体力と魔力の限界が来ただけ。炎の龍を出すのはかなり疲れる。この赤い球の魔法も、体力が削られているうえに魔力を発動中ずっと必要とする。
「お前ももう魔力も体力も残ってない。残念ながら今日も決着は付かずじまいだ。」
俺は勇者にそう言うと、立てている足を交換した。それを見てか、勇者もその場に座り込んだ。
「つ、疲れた・・・。久々に、本気で、疲れた、よ・・・。」
勇者は息絶え絶えに言いつつ、やはり魔力で止血する。
「魔王様が、僕の技、真似したりするから・・・。」
「真似じゃない。使わなかっただけで、もともとあった。真似はお前ということになる。」
「使ったのは、僕が先・・・。」
俺はそれを聞き流す。そしてゆっくり立ち上がり、勇者に近づいた。
「お前帰らないのか?いつまでここに座っているつもりだ。片付けられないだろう。」
「魔王様の鬼・・・。今さっき終わったばかりでしょう。いつまでって・・・。」
魔王に鬼という悪口は、はたしてそれとして成り立っているのだろうか。
勇者はそのまま寝転がった。
「ちょっと、寝る。帰るだけの魔力も体力も残ってない。」
「歩いて帰れ。」
「無理・・・。」
そう呟くと勇者は目を瞑った。
「寝るな!帰れ!」
俺はそいつの隣にしゃがみこみ、耳元で叫んだ。
「・・・魔王様、うるさい。」