僕の遊びと俺の迷惑
勇者
「無防備過ぎるよ、魔王様。」
僕は隣で眠っている男の子の顔を覗き込む。頭から2本、牡牛のような角が生えているだけで見た目は普通の少年と大差ない。魔王様は僕をチビと言うが、それほど身長に差はない。初め、ごつい大男を想像していた僕は拍子抜けした。弱い奴には興味ないから。でも予想外に魔王様は強かった。さすがに百何年の歴史に登場していただけある。
しかしこうして寝ていれば、そんなものはお構いなしに討伐完了出来るだろう。
「僕が君を生かしておくって言ったからって、信用しすぎじゃない?こんな可愛い顔で寝ちゃって。」
殺すのは簡単。でもしない。まだ惜しいから。
「・・・ん・・・。」
覗き込んでいた僕の髪が魔王様の頬に当たったためか、魔王様は少し声を漏らした。
「それにしても綺麗な顔しちゃって。もし人間だったならモテモテだったよ、きっと。」
魔王様の頬についた傷をなぞってみた。僕がつけた傷。
「いつかは決着つけないと駄目だよね。僕と魔王様の寿命、大分違うし。」
もったいないけど、仕方ない。僕の寿命はせいぜいあと60年。魔王様は計り知れないけど。人間はある程度の年までなら強くなれる。でもそれ以降は落ちぶれていく一方だ。僕が魔王様と対等に戦って、遊べるのはそう長くない。
帰るためにはまだ足りない魔力を補うためにもう少し寝る必要がある。僕は再び横になった。こんなチャンス滅多にないと、魔王様に接近してみた。よほど寝ているらしい。ついには密着したが、魔王様は起きる素振りさえ見せない。
「・・・魔王様、もうちょっと危機感持ったほうがいいよ。」
僕に劣らずの変わり者なのだから。
魔王様の腕を枕にしてみる。いわゆる腕枕。それでも起きない。
「うん、まあ、そんなところも魔王様の長所ってことにしてあげるよ。」
僕はそのまま目を瞑る。人よりも少し冷たいけれど温かい、そんな体温が伝わる。
最初に出会ったとき、魔王様は僕に迷子かと言った。僕は迷子にはなれない。随分前から家族はいない。家もない。だからこそ、もともと少ししかなかった全部を簡単に捨てて勇者になれたのだけど。