僕の遊びと俺の迷惑
そんな考えを頭の中だけに留めつつ、大広間に入った。勇者は楽しそうに笑みを浮かべて待っていた。
「お前、何故俺と決着をつけないんだ?」
勇者はその笑みを呆気にとられた顔に変えた。
前に俺を倒しにきた勇者は俺を本気で倒そうとした。それこそ、自分の命に代えても、と。まあ、だから俺の手によって死んだのだが。
「魔王様、勇者が魔王を倒すとどうなるか知っている?」
逆にそう問いかけられた。
「国中から祝福される。英雄としてな。歴史にも、名前が残るんじゃないか?」
勇者は少し寂しそうに笑った。
「うん、そう。そしてその後は?」
「その後?」
「祝福されて、歓迎されて。でもその後は?一生祝福されると思う?一生歓迎されると思う?」
俺は黙った。人間の関心は移ろいやすいものと知っていたから。
「絶大な力を持ったまま、今更普通の人間として生活できると思う?それに魔王を倒すってことはね、自分が魔王よりも強いって周りに知らせるってことだよ。」
勇者の言いたいことが分かった。俺、魔王よりも強いということは、魔王に取って代わる脅威が現れたことに等しいのだろう。人間達はそいつが魔王と同じような思想を持ったら、というくだらない疑念にかられる。自分達がそうさせたくせに。
「だから魔王様はしばらく倒さない。いてくれないと僕が困るよ。」
四天王は容赦しなかったのに。自分の代わりに恐れられる一番の脅威は取っておくってことか。
「ね、魔王様。そんなことより早く戦おうよ!」
勇者は楽しそうに言う。俺はため息をついて、先ほどのチョコの腹いせ代わりに返した。
「今日は少し本気でやらないか?」
勇者は嬉しそうに目を輝かせた。
本気でやって先ほどの行動を後悔させ、あわよくば息の根を止めようと思っている。
「魔王様からそう言ってくれるなんて!どうしたの?僕と戦うこと楽しくなってきた?それとも僕のラブが伝わった?」
「どちらも違うが、後者は絶対にない。第一そんなもの初めからないだろ。」
勇者と魔王が抱く感情は一つ。相手を倒すこと、それだけ。