そして、今日もキミを想う。【完】

寿々歌は記憶を失くしたわけじゃなかった。
自らを守るために、最善の方法をとったということなのだろうか。

「本当はすぐにでも記憶は戻ってくるんだと思う。思い出そうと思えば思い出せるんだと思う。でも、一つ思い出せば思い出したくないことまで思い出すことになる。だから、自分が記憶喪失じゃなくなるのをあいつは自ら拒んでるんだよ」

やっぱり。
あの時はそう思うこともできなかったけど。

『――ごめんなさい。人違いではないでしょうか』

再会して寿々歌に会った時、彼女はこう言った。
でも、ほんの一瞬、彼女の目は見開いた。

記憶にあったから。
俺のこと、覚えていたから。

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