ハルアトスの姫君―君の始まり―
「ジアにはお礼を言ってなかったね。」

「お礼?何の?」

「俺の命を救ってくれたお礼。
あの時ジアに出会えて良かった。こうしてジアと話せて良かった。本当に今、そう思う。」


ぎゅっと強くジアの手を握った。ジアから握り返しはしない。


「ホントに?死にたいとか…思ってないよね?」


ジアが言っているのは、目覚めてすぐに口にした言葉のことだった。
握っていた手を一度軽く離して、もう一度握り直す。


「思ってない。君に救ってもらったことを感謝してるよ。それに…。」

「?」

「ジアに命を託したことも嘘じゃない。後悔もしていない。
だから…俺はジアがいてほしいと思う間はずっと傍にいるよ。」

「…約束。」

「うん。約束。」


ジアが手を握り返してくれる。握り返されたその瞬間は正直驚いたが、いつの間にか頬が緩んでいることに気付く。
ジアの方にも笑みが零れる。


冷たい風が俺たちの間を吹き抜けた。


「少し落ち着いた?」

「え?」

「表情、和らいでるから。」


そう口にするとジアはにっこりと微笑んだ。
自然と手は離れ、家へと歩みを進める。



「…本当にただ、傍にいることしか…俺にはできないかもしれないけど。」

「え?」

「何でもないよ。戻ろう。」

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