ハルアトスの姫君―君の始まり―
キースの体温は直に触れ続けると温かくて、本当に気持ちが良かった。
頭を優しく撫でられ、心がゆっくりと落ち着きを取り戻していく。
あまりの温かさと撫で方の優しさに、瞼がゆっくりと落ちていくのを感じた。


いつの間にか意識を手放し、夢の世界に旅立っていた。


「猫のジアは手懐けたか、キース。」

「刺々しい言い方ですね、シュリ様。」

「お前の膝で寝るとは…可愛いものだな。」

「…そうですね。」

「可愛い、については否定しないお前もかなり可愛いと言えるな。」

「からかうのはよしてください。」

「…張りつめていた糸が切れたんだろう。もちろん良い意味で。
とても穏やかな顔をしている。」

「そうですね。」

「ジアに何を言ったんだ?」

「何をって…どういう意味ですか?」

「凍ったジアの心をどうやって溶かしたんだと訊いている。」

「…溶かすも何も、彼女の心は凍ってなどいませんよ。
ただ、恐れていたんだと思います。」

「恐れ…。」

「拒絶を。」

「…そうだな。そうかもしれない。」

「剣士が安らかに休息できる場は必要です。特に彼女のような剣士には…。」

「真っすぐな剣士は理想と現実の境目で弱る。
…お前が休息場になってやれ、キース。」

「俺じゃ役不足です。」


キースの苦笑いに対し、シュリが余裕そうな表情を返した。

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