ハルアトスの姫君―君の始まり―
シャリアスに事を告げると、彼女はゆったりと城の一室、つまりは自室の小窓からヴィトックスの位置する方向を見やる。


「こんなことくらいで消せるとは思っていない…。
…それが目的ではない…がな。」


そう。消すことが目的なのではない。
この『コト』を起こすことで『離れる』ことが目的なのだ。
離れた『モノ』をこちらに引き込むことも忘れてはならない。


「切り札は…ルナ。」


必ず気付く。あの『モノ』ならば。
なぜ『コト』が起こったのか。
私を知らないはずがないのだから。
そして自分がどういう存在なのかを知っているのだから。


「傷は舐め合わねば…決して癒えることはない。
…舐め合っても全て癒えはしない…か。」


癒えはしない。
たとえ何百年の時が過ぎようとも。


忘れはしない。
この痛みも愛した記憶も全て。


痛みを憎しみに、記憶を狂気に変えてみせる。


漆黒の魔女の口角が上がった。

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