ハルアトスの姫君―君の始まり―
シュリ様が一瞬揺らぐのを見た。


「…シャリアス…。」

「シュリ・ヴァールズ。初めてお目にかかります。」

「…お前…シャリアスだろう?」

「何故名前を?」

「お前が…シャリアスだからだ。」

「それでは理由になりませんね。」

「覚えていないのか、私のことを。」

「覚えているというよりは知っていると言った方が正しいかと。
あなたの魔力についてはもちろん知っています。
それにヴィトックス最後の魔女であることも。」


それだけ言うと、シャリアスは笑顔を浮かべた。
温かいとはお世辞でも言えないほど冷たい笑顔を。


「…風はお前だな。」

「これはこれは、キース・シャンドルドまで。
そして正解です。風は僕の得意分野です。」

「お前の力でシュリ様の結界は破れないはずだ。」

「それも正しい指摘と言えます。
その通り。僕の力はシュリ・ヴァールズに及ばない。
彼女の結界を破ったのは僕ではなく、ジョアンナ様です。」

「ジョアンナ…生きていたのか…。」


シュリ様の呟きが闇夜に溶ける。
もう火が全てを焼き尽くし、夜の闇の中にただ焦げ臭さだけが漂っていた。

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