ハルアトスの姫君―君の始まり―
「嵐は去った。もう戻ろう、キース。ジアたちの悪夢はまだ続く。」

「俺は…帰らない方がいいのかもしれません。」

「お前もさっき言っただろう。あれはまさに戯言だ。聞き流せ。」

「……。」


謝って済むものなのかどうかも今の自分では分からない。
戯言だと思っている部分だって少なからずある。
だが、村が燃やされた理由の一つに自分が入っているということも否めない。


「…謝罪などいらぬ。炎で消したかったのは村、そして私、お前。
ジョアンナの本心こそ分からないが、それが今のところはっきりしている事実だ。それ以外何が言える?」

「…俺に居場所がないのも事実です。」

「それは関係ない。」


シュリ様はそう言い切った。
それでもキースは関係ないとは言い切れなかった。
なくは…ないのだろう、と心のどこかでそう思う自分を否定できない。


どこにも属さない、属せない、属してはならない存在。
ヒトと、自分以外のイキモノと関わるべきではなかったことをこうして何度思い知らされれば気が済むのか。


「ルナは戻らない。それは分かってるんだろう?」

「もちろんです。」

「ならば、傍にいてやれ。今は、誰よりも。」


『誰の』とまでは言わないところが、シュリ様らしいと言える。
いつの間にか、家の前まで辿り着いていた。

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