ハルアトスの姫君―君の始まり―
「キース…。」

「身体は大丈夫?頭痛とか…あと辛い夢を見なかった?」

「え…どうしてそれ…。」

「昨日、ジアが嗅いだ匂いは魔法の力が働いていたんだ。
古の魔法、ブレイジリアスという…ヒトに悪夢を見せる魔法だ。
昨日倒れたこと、覚えてる?」

「…えっと…ちょっと待って。」


少しずつ、昨日の記憶を引っ張り出す。
クロハが風が変だって言ったから外に出ようとした。
そしたら…変な匂いに身体がビリビリしてそれで…


「キースに名前呼ばれた…よね?」

「うん。でもジアは眠ってしまった。…まぁ、抗いようがないけど。」

「すごい睡魔がいきなりうわーって…。」

「そうだろうね…。それで、夢は大丈夫だった?」

「夢…。」


まさか、『あなたがどんどん離れていく夢でした』だなんて言えない。でも…


「すごく…辛かった。」

「…そっか。だから涙の跡…。」


キースの指がそっと涙の跡に触れた。
心配そうな表情を浮かべながら、真っすぐにあたしを見つめている。


「でも、夢だから。何があったかは知らないけど、それは本当に悪夢ってだけだから。」

「そ…う…だよね…。」


夢。ただの夢のはず。
それなのに心がざわついて落ち着かない。
目の前にいるのに、触れているのに。
なんだか消えてしまいそう。

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