ハルアトスの姫君―君の始まり―
【シュリside】


眠ったように穏やかな表情で横たわるキースの右頬にそっと触れた。
イキモノとは思えないほどに冷たい。
それでも呼吸はしているから死んではいないのだろう。
魔法は失敗していない。


「…気を失ったままハルアトスまで運んだ方が良いな。
その方が自然だろう、記憶を失っていても。」


記憶も少し改ざんした。
ここで過ごした日々の記憶を薄れさせた。
特にジアとミア関係の記憶は。


「全てはハルアトスにあり、か。
それはあながち、嘘ではないかもしれないな。」


ジョアンナがついに動き出した。
ずっと、生きているのか死んだのかも分からなかった『最強の魔女』、ジョアンナ・シュバンズ。
彼女が動くということは世界が動くということだ。


彼女の思惑が世界を動かしている。
彼女はもう…壊れた魔女であり、負を纏う。
そのオーラはただならぬ黒さを放ち、全てを無に帰す。


「それでも立ち向かう、その勇気だけは讃えるぞ、キース。」


それでもキースのこの選択が正しいかどうかは今の自分には判断しかねる問題だった。
率直に言えば正しいとは思えない。
全てを傷付け、一人ですべて背負おうとした、自己満足にも思える。自己犠牲とも取れる。

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