ハルアトスの姫君―君の始まり―
「守りたいもののために、自己を犠牲にする。
私にはそう見えて仕方ないよ。」


だけど、それでも…


「お前は犠牲だとは微塵も思っていないのだろうな。
…それでいい。それを正すのは私の役目じゃない。」


魔法使いは人間界に関与してはならない。
それは古くから守られてきた理だった。
いや、正確に言えば〝守ろうとしていた〟理だった。
そんなものはもっと前から崩壊していたのだ。


ヒトと魔法使いは同じ空間の別世界を生きる。
共有しているようで共有しない世界を。


それを最初に破ったのは、ジョアンナではなかったのであろう。
それでも今、世界を一番壊したがっているのは彼女であることは明白だ。
壊された己を道連れにして。
それならば…


「私は私の関与できる範囲で関与しよう。」


未来を変えることはたやすくない。
キースが動いたことで決まる未来がある。
それを変えるのは…


「私じゃない。ジア、お前だよ。」


変えたいと願う人間が変えなければ、変えられない。
生きているのならば追い掛ければいい。


―――これは自分に言っているのだろうか?


「いや、もういいんだ。会いたい奴は、もう私にはいない。」


不意に浮かぶ、もう会えないその人。
私は首を横に振ることで彼を消そうとした。
それはあまり上手くいかなかった。

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