ハルアトスの姫君―君の始まり―
【シュリside】


自室に戻り、窓辺の花瓶に近付いた。


もう何百年前になるのだろうか。
村にいた魔力の強い魔法使い、『ミスト』に時の魔法を施してもらったのは。


本来枯れて土に戻るべきピュアラズリは故意に時を止められ、死ぬこともできずにまだ花瓶の中にあった。


「すまないな、ピュアラズリ。
…お前を土に還すのは…もうすぐだ。」


決別せねばならない。
シャリアスはもう、戻らない。


「それにしても…。」


ピュアラズリに触れながら、シュリは言葉を続けた。


「ジアの強さは、相手の中に非を見つけるのではなく、自分の中に非を見つけるところだな。
その気付きが、彼女をさらに強くする。
だが…それは時に我が身を斬り裂く、か。」


自分の非を認めることはたやすいことではない。
乗り越えられれば強くなるが、乗り越えるまではかなり辛い。


「納得できないのならば、その納得できなさと戦えば良い。」


納得できなくても戦えない場合もある。
戦えるのならば戦った方が良いに決まっているんだ。


「…ジアならできる、そんな気がしてならないのは…。
…私も随分甘くなったものだよ。」


ピュアラズリが小さく揺れる。


「さよならだな、シャリアス。」


それでも私は、お前を永遠に忘れない。
ピュアラズリに触れながら、ゆっくりと目を閉じた。

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