ハルアトスの姫君―君の始まり―
「なるほど…。君の母親ならばそういう教育方針を取るだろうね。
そもそも君を生んでしまったことに罪悪感があるだろうから。」

「そうですね。」

「せめてその身を守れるようにと願ったんだろう。
…くだらない。結局君は人間にも魔法使いにもなれはしなかったのに。」

「そうかと思います。」


冷たい言葉を淡々と飲み込む、自分だけど自分じゃない身体。
思ったよりも自我が保たれている自分としては、いささか痛くはあるけれど。
痛いのは精神であって身体じゃない。
身体はもう、自分の意志を反映などしてくれない。


「身体の内部だけに意識を集中させてみるんだ。
そうすれば臓器が見える。」


キースの身体はその言葉に忠実だった。
死体に近付き、手をかざす。


研ぎ澄まされた空気の中で集中力だけが高ぶっていく。


―――見える。もう動かない、所々傷付いた臓器。


「それが全てなくなるイメージを思い浮かべてみるといいよ。
それだけで君なら消せる。あ、間違っても全身を消さないようにね。
邪魔なのは臓器だけであって他はちゃんと必要だから。」


安らかに眠らせてやりたいと願う自分。
それでも止まらぬ集中力。


横たわる身体が、シャリアスの時と同様に光った。





「成功だよ、血が血なのに優秀だね。」

「……。」


シャリアスの言葉に対する上手い答えが見つからなかった。
身体が精神に忠実であれば、おそらくこの時、俺の手は震えていただろう。

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