ハルアトスの姫君―君の始まり―
「うわっ…!」

『素人だからと言ってあたしは甘やかしたりしないからね!』

「だ、大丈夫!頑張る!」

「…その意気だ、ジア。」

「おいおい…こんな不安定なまま飛ぶのかよ?」

「そうだな。落ちぬよう掴まっていろ、クロハ。
私もそやつ同様、お前を甘やかす気は毛頭ない。」

「んなこたぁ知ってるんだよ!」

「ならば大人しく掴まれ。」

「分かったっつの!」


当然足元には何もなく、ただ夜風が肌の上を滑っていくだけだ。


「ねぇ、シュリ。」

「なんだ?」


少し前方を飛ぶシュリに声を掛けた。


「どのくらいで着くの?」

「このまま飛び続ければ明日の早朝には着く。
が、そのまま乗りこむような無茶はしないしさせるつもりもない。」

「ど…どうするの?」

「どこか休める場所を城の付近で探す。
外界と遮断した特別の空間を作っても良いかもしれんな。」

「そんなことして大丈夫なの?」

「私の魔力が、という問いか?」

「うん。」

「…心配はいらぬ。大事な時に魔力を使いそびれるような愚かなことはしない。
それに、ハルアトスに到着して早々に乗りこむのはいささか危険というものだぞ。」

「え…?」


着いたらすぐに城に乗りこむつもりでいた身としては、意外な反応が返って来て思わず間抜けな声が出た。

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