ハルアトスの姫君―君の始まり―
【シュリside】


自分が酷なことを言っているという自覚は確かにあった。
それでも言わずにはいられない。
…自分の施した魔法の責任、として。


「迷ってはならない。その刹那、お前が感じたまま、そうしたいと思ったままに動け。
…それは、考えずに動けという意味ではない。」

「……。」


干渉できる範囲を超えずに助言を与えるとは、どれほどまでに難しければ気が済むのか。
私に赦された範囲でのみしか、人間界に関与してはならない。
それは、私の魔女としてのプライド故の部分ももちろんあるが、これ以上壊したくない想いの方が勝る。世界も、想いも、繋がりも。


「たとえ、キースがお前の知らぬキースになっていたとしても、だ。」

「え…?シュリは…シュリは何か知ってるの?」

「知っていたとしても、私は何も言えない。」

「どうして?」

「私は魔女だ。お前たちとは別の世界を生きるべきモノ。
本来ならばこうして交わることすら赦されていない。」

「じゃあどうして…!」

「…向こうも、魔女が関与しているからだ。
彼女の干渉も、そもそもは赦されざるもの。
人間の世界は人間の世界としてあるべきなのに、歪みを生もうとしている。
…いや、もう歪んでいる、な。」


〝歪み〟ならもうすでに、我が身にも降りかかっているではないか。
…もう戻らない、〝会いたくて〟〝会いたくない〟彼の人。

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