ハルアトスの姫君―君の始まり―
「向こうって…ハルアトスに…魔女…?
だってハルアトスって王宮で…それって人間の…。」

「元々はもちろん人間のものだ。
だがしかし…今はおそらく違う者の手中に収まっていると私は見ている。」

「それが…魔女…?」

「ああ、そうだ。」


彼女が干渉しているからこそ、私も干渉できる。
戻さなくてはならない。
―――魔女が乱した秩序を、平和をこの地に。


「…シュリ?」


ジアの表情が曇り、おずおずと私の表情を窺う。
…戦士の心を煩わせてはならない。


「私は大丈夫だ。だからそんな顔をするな。」

「…?」

「表情が暗い。お前にそういう顔は似合わん。」

「え…?」


ルビーの剣士の瞳に秘めた強さは、迷えば途端に輝きを失うであろう。
迷いを生むことなく彼女が進めるよう、私は小さな光とも言えぬ光を絶やさずに支えるまでだ。


「…剣を強く握れ、ジア。
さすれば迷いが生じる隙もなかろう。
誰を前にしても、剣筋に迷いを生じさせるな。
それは結果として死を招くことになる。…誰のか、までは分からないがな。」


ジアは小さく頷いた。
私のこの暗号めいた言葉を真っすぐに受け取って。


「夜はそれほど長くない。スピードを上げよう。」

「うん…!」


頬に当たる風が、少しだけ鋭さを増した。

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