ハルアトスの姫君―君の始まり―
「まぁそう急くな。
急がすとも、重なる意志のない私達は刃を交えずにはいられないのだ。
…だろう、ジア?」


急に話を振られ、悔しいけれど立ち竦む。
表情は柔らかいのに声がどうしようもなく冷たい。


「…私はむやみに殺したりはしないわ。」

「何を言う。斬ったではないか。己の望みを叶えるために。」

「…っ…どうして…。」

「〝どうして?〟あまりにも愚問だな。
私は魔女だ。ハルアトスに住む、〝最奥の魔女〟。
お前がヴィトックスに着いてからの動きは大方読めている。」

「え…?」


ジョアンナの言葉が飲み込めず、間抜けな声しか出ない。


「シュリの魔力に触れ、お前自身の魔力も覚醒しつつある。
…その瞳に宿る、分裂した魔力。」

「あなた何を言って…。」

「シュリは何も知らせなかったのだな?
…いや、お前は何も知らぬか?」

「知っていても知らなくとも、私もお前もそもそもの干渉値を越えている。
本来、干渉してはならないのだ。
…たとえ、王家が私達の魔力を欲しようとも。決して交わってはならない。交わってはならなかった。それは歪みを生む。
その理は間違ってなどいなかった。
お前の関与は、こうして歪みを生んだ。そうだろう、ジョアンナ。」


ジョアンナは一度だけ瞬きをして視線を下にずらした。
そしてゆっくりと視線を上げた。

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