ハルアトスの姫君―君の始まり―
「私と戦うのか?
その剣たった一つで。」


嘲笑を浮かべ、少しずつ距離を詰めてくるジョアンナに後ずさる。


「それ以上近付いたら、剣を抜くわ。」

「それで私が引き下がるとでも?」

「いいえ。そんなこと思っていない。
でも警告はすべきだと思って。」

「警告?」

「ええ。呪いを解くためなら、あたしはあなたを殺せるわよっていう、ね。」



目は逸らしたら負けだ。だからこそ唇を強く噛んだ。
魔女は満足そうに微笑む。





「…ではここで止まろう。
殺されてはかなわんからな。」


ピタリと動きを止め、長い髪を指でくるくると弄ぶ。
その横顔はやはりどこか冷めていて、哀しい。


「私の顔に何かついているか?」

「…いいえ。ただ…。」

「ただ、なんだ?」

「あなたからは冷たさしか伝わってこないって思っただけ。」

「…正しい見解だ。」


嘲笑は深みを増した。

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