ハルアトスの姫君―君の始まり―
傷だらけの姿で横たわる身体。
月明かりと共に猫になった自分。
ミアの力を最大限に使って治したあの日。


…確かにキースは〝ルナ〟と言った。
死んでしまった、今はもういない大切な人。
なんだか色々と納得がいくような気がする。
時折感じたキースの切なさはきっとここから来ていた。


もう会えない、それでも会いたい〝大切な人〟


シュリもキースも同じだ。
もしかしたら、ジョアンナだって同じなのかもしれない。
求めるものは一緒なのかもしれない。いや、一緒なのだ。


「我々は同じなのだよ。今は亡きモノを追い求めようと必死なだけだ。」

「…でも、違う。」

「…何が違うのだ?」

「キースは…あなたみたいに世界を壊してまで求めてはいない。
…進もうと、していた。」


キースの気持ちが全て分かるわけではもちろんない。
それでも、そんな気がした。


キースは己の欲望のままに動く人では決してない。
あたしが弱っていれば迷いなく手を貸してくれた。
その手はいつだって優しくて…


「…守られてばかりだった、あたし。」


守られてばかりの自分に嫌気がさす。


「今は〝ナキモノ〟を追い求めているのは…あたしも同じだってことは認める。
だから返してもらう。キースの意志もキースの想いも全て。」

「…そういう瞳を待っていた。」


ジョアンナは静かに目を閉じた。

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