ハルアトスの姫君―君の始まり―
焦点が定まらずフラフラと行き先を失う瞳。
その瞳を覗き込むように、ジアは寄り添った。


「…分かる?見える?」

「…ん…っ…。」


ピタリと焦点が定まったらしい。
焦げ茶色が金と銀の瞳を見つめた。


「こ…こは…?」

「…ザーツの森の小屋の中よ。」

「…どうして…生きてるんだ…俺…。」

「え?」

「死ねると…思ったのに。」


ジアの頭の中で彼の言葉がリピートされる。


『死ねると思ったのに』ですって?
あたしが…どんな想いで…っ…!
様々な想いがぐるぐると自分の中で渦巻いて、上手く言葉にできない。
怒りだけではない感情が一気に手に集中した。


バチン!


乾いた音が小さく響く。
彼の目は完全に覚めたようだった。
おまけに頬は、わずかに赤く染まっている。





「死にたかったら、あたしがいなくなってからにして。」


震える声で、ジアはそう言った。

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