ハルアトスの姫君―君の始まり―
「クロハ!ミア!」

『お姉様!皆様!…酷い怪我…。』

「ミア…お前、言葉を取り戻したのか?」

「え…?シュリにも聞こえるの?」

「ああ。だが猫のとしての声も聞こえるということは…。」

「呪いは解けていない、ということだ。だが、解け始めている。」


ジョアンナが妖艶に笑みを零した。長い黒髪がふわりと揺れる。


「〝三の異なる涙が揃いし時、時の歯車が歪みを正す〟
時の歯車とはこの城に眠る巨大時計のことですね、〝ジョアンナ様〟?」

「ふん。なんだそのわざとらしい口調は。
…私も考えが浅かったな、お前の魔力を見くびっていた。」

「どっちつかずの中途半端、それが大方の魔法使いの俺に対する共通見解ですからね。
…それは否定できませんが、中途半端が能力値の低さとは直結しないことを知識として入れておいてください。」

「自我が目覚めて口が達者になったな、キース。」

「守るべきものが今はちゃんとありますから。
〝ルナ〟のことを守れなかった自分に決別します。」


キースの瞳はただ真っすぐにジョアンナを見つめていた。
ジョアンナは口惜しそうに表情をやや歪める。


「そう簡単に決別などできるものか…!」


そう言うとジョアンナが手に力を溜め始める。
それを見たキースがすっと口を開く。


「〝古より眠る、巨大時計よ。今、その眠りから解き放とう。
今こそ目覚めの時なり。その姿を現したまえ。
我はキース・シャンドルド。正当な魔力を継ぐ血の流れる者。〟」

「っ…な…なに…っ…?」

「眩しいっ…!ミア、こっち来い!」

「にゃあ!(『うん!』)」

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