ハルアトスの姫君―君の始まり―
さっきよりもずっと強い光が床から溢れ出る。
その光が収まると同時に浮かびあがったのは言葉通りの『巨大時計』


「…巨大…時計…?」

「俺の血でも大丈夫だったってことは…純粋な血というよりは魔力の大きさを感じて姿を現してくれた…って解釈で良いのかな…?」

「キース、どういうことだ。」


飛んできたのは鋭いシュリの声だ。


「お前…私に操られた身でこれを探り当てたのか?」

「ええ。ジョアンナ、あなたの魔力は非常に強い。ですがシュリ様の力をも見くびったのがあなたの誤算の始まりです。
あなたはシュリ様が俺にかけた魔力封印に気付かなかった。それが一定の条件をもってして解かれる封印であることすら。…まぁもっとも、俺もその封印解除の条件を知っていたわけではないんですがね。」


キースがそこまで言い終ると、ジョアンナははっきりと憎悪の感情を表情に映した。


「想像以上にあなたに浸食され、自我を保つ時間が予想していたよりも短かったのは俺の誤算です。それでも全てが不自由だったわけじゃない。
〝俺〟に戻る時間は確かにあった。あなたのいない場所で。あなたは自分の力を過信しすぎたのです。それは俺も同じく、でした。だからこそ、多くを傷付けここまで来た。」


キースの言葉の後半は少し懺悔に近い内容だった。噛み締めるようにそう言ったキースの腕にジアはそっと右手を伸ばす。


「一番傷つけたくない人の笑顔も身体も何もかもを傷付けた。
だからもう後戻りはできない。調べるだけ調べ上げた、あなたも掴んであるはずの情報を駆使して呪いを解く。ジアを…そしてミアを解放する。」


キースが左手をジアの右手に重ねた。そして優しい視線はジアに向けられる。

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