ハルアトスの姫君―君の始まり―
「〝金の瞳を宿すは時の力。時空を支配し、過去、現在、今を飛び交う力を持つ。
銀の瞳を宿すは癒しの力。心と体の傷を瞬時に癒し、広く愛を与える力を持つ。〟
これはハルアトスの歴史書に記載されている内容だ。
キース、お前も自我の戻った状態でこれは調べたのだろう?」


キースは頷いた。


「巨大時計には三つの〝穴〟がある。この穴を埋めた時に放出される光とその気はありとあらゆる不浄なものを浄化する。つまり、かけられた呪いを解く。」

「だが、呪いを解くことは二人に本来の力を呼び戻すことになるのだ。
私が欲しい力が目の前に転がることになる。
…有難い限りだよ、キース。私でもこの巨大時計の呼び起こし方は知らなかった。どこで手に入れた?この城の書物には一通り目を通したのだがな。」


ジョアンナの口の端が吊り上がる。怪しげに微笑みながら、キースをじっと見つめている。


「〝読めない書物〟もあったのではないですか?」

「…っ…。」


どうやら図星だったようだ。ジョアンナは何かを思い出したかのようにはっとした表情になり、その後でその表情が歪んだ。


「あなたは魔法使いだ。加えて、力を持つ長命な魔法使いでもある。それ故に知識量が豊富であることも分かっていた。
だがそんなあなたにも補えない部分はある。」

「補えない…部分…?」

「ああ、ジア。私達魔法使いは魔法使いにしか通じない言語を読み、書くことができる。そして現在使われている人間の言葉も把握している。
だが、人間の〝古語〟は理解できない。生まれた頃にあった言語ならまだしも、それよりもはるかに前に書かれたであろう古書は読めるはずもないのだ。」


傷をおさえながらシュリがそう言った。

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