ハルアトスの姫君―君の始まり―
「ジア!てめぇなに怪我人叩いてんだ!」

「にゃあーにゃあー!」


ミアとクロハが必死に止めるものの、ジアはさらに殴りかかりそうな雰囲気を醸し出している。
…止まらない。言葉にならない感情が行き場を失っている。


「生きるも死ぬもあんたの勝手だけどね…まずは聞きたいことがあるのよ。」

「き…きたいこと?」

「氷の涙、って知ってる?」

「氷の涙…聞いたことがある。」

「え?ホントに?」


あまりにもすんなりと返って来た言葉にジアの方が拍子抜けしてしまう。


「…すごく前、だけど…。確か…全ての呪いを解く…んだっけ?」

「そう!それよ!それがどこにあるか…。」

「…は知らない、けど。」

「…そ…うよね…。」


あからさまにがっかりした様子を浮かべるジア。その素直さに男は目を丸くした。


「な…なによ…?」

「いや…素直だなと思って。」

「ば…バカにしてんの?」

「そうじゃないよ。でも…顔を引っ叩かれたのには驚いた。
…君を怒らせたんだね。」


穏やかに紡ぎ出される言葉。低く響く声。
そのどちらも、ジアは初めて経験するものだった。
男の人がこんな風に穏やかに、優しく言葉を発するのを聞いたことがない。

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