ハルアトスの姫君―君の始まり―
浮かび上がったままのジアは右手を巨大時計の中央にかざしていた。その指先が強く光る。


『次元の扉よ、開け。』

「だめだ、ジア!」


指先から放たれた光が時計の中央に黒い穴を開ける。そこがまるでブラックホールのように周辺のものから吸い込んでいく。


「…時間を行き来する力…これこそ私が求めていたもの…!これで取り戻せる…。」

「力が暴走してる…!このままじゃ城ごと飲み込まれる…。」

「どうすりゃいいんだ…。」


完全に誤算だ。呪いが解けたには解けたのだろう。ミアの瞳は両目とも銀に戻っている。呪いは二人で分けたもの、つまりミアの方に銀の目が揃ったということは必然的にジアの目は両目とも金に戻っているはず。…時を司る力を持つ金の瞳に。


だが、この力の暴走までは考えすら及ばなかった。ジョアンナの横やりが入るであろうことくらいしか、予測できなかった。
―――さぁ、どうする?このままじゃ、時空の穴にジアを奪われる。それこそ本末転倒だ。


「ジアよ、私と共に時空の穴に飛び込むのだ。
…過去に戻ろう、ジア。」

「だめだ!この力の暴発した状態で飛び込んだら戻ってこれなくなる!」

「…戻る?何をたわけたことを…戻りはしない。ジアは我が手中で時を動かすだけの駒であればよい。」


そう言うとジョアンナがジアの腕を掴み、そのまま穴へと飛び込んだ。


「っ…待てっ…!」

「おいキース…お前正気か?」

「離して下さい…シュリ様。」


俺の腕を引いたのはシュリ様の水の魔法だった。

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