ハルアトスの姫君―君の始まり―
「何か勝算はあるのか?」

「…ありません。でも次期に閉じてしまう、この穴は。術者であるジアが中核としてこの場に留まらなくては綻ぶ…そんなこと、あなたなら分かるでしょう!?」


シュリ様の表情が歪んだ。


「…分かる。だが入ったところでどうなるものでもなかろう。
外部から力を加えることはできないのか?」

「…時計が…消える…。」

「薄れている…。」

「キース、君は行った方がいい。」

「っ…!」


シャリアスがシュリ様の水の魔法を打ち消す。その瞬間、ふっと軽くなる身体。
その軽さに身を任せて穴へと走る。


「だめだ!考えなしな行動を…。」

「…考えて考えて…考え抜いて…たくさんの失敗を繰り返してきました。
たまには考えずに〝今〟を大事に動いてみようかと思います。」


いつだって考えれば考えるほど答えは出なかった。
そんな中で出した答えは必ずといっていいほど誰かを傷付けた。傷付けずには守れなかった。そんなの、守ったなんて言えないことなのに。


「行け!巨大時計には力を送り続ける。穴も無理矢理こじ開けておくよ。
だから君はジアを取り戻しておいで。」

「…任せる。…シュリ様、身を案じて下さり、ありがとうございます。あとはお願いします。」

「…無責任な奴め。この貸しは高くつくぞ。」

「戻ってきたら必ず返します。」

「キース!てめぇ、ジア連れて来ないんなら帰ってくんなよ!」

「分かってるよ。ちゃんと連れて帰ってくるから。」


任せるべきところは任せるべき人に。
頼ることは…信じることは弱いことじゃないから。


―――迷いはない。
地面を強く蹴って、俺は穴の中に飛び込んだ。

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