ハルアトスの姫君―君の始まり―
「あ…あんたが失礼極まりないこと言うからよ!」


戸惑いをどうにか隠しながらジアはなんとか言葉を振り絞った。


「…『あんた』じゃない。キース、それが俺の名前。」

「キース…?」


そう名乗った男の焦げ茶色の瞳にはやはり優しさが灯っていた。


「君の名を教えてくれないか?」

「…ジア。」


キースの目は穏やかなままだった。


「おれはクロハだ。お前の傷を治したのはおれだからな!」

「クロハ…。なるほど…優秀な医者なんだね。でも肩の矢は…。」


キースは不思議そうに左肩をさすった。
ほぼ貫通していたのに、そんな傷が1日やそこらで治るはずがない。


「えっと…それはだな…。」


口ごもるクロハを優しい目で見つめ、少しだけ笑みを浮かべてキースは続けた。


「…言えないことなら言わなくていいよ。
どうやって治ったかなんて今更どうでもいい話だ。
ところで…その猫は?」

「ミアよ。」

「ミア…。
ジアとミアは目が逆、なんだね。」

「…っ…!」


その指摘は間違っていなかった。

< 33 / 424 >

この作品をシェア

pagetop